今年も昨年と同じように、心身ともに健康で、いつも瑞々しい音楽をお届けできるように心を整えて臨みたいと思っています。
下手の横好きが信念を貫くといったようなことかもしれませんが、何を言われようと自分の想う音楽をまっすぐに進みたいと思います。
そして今現在、昨年12月に滋賀県のSTIMMER SAALというホールでrecordingしましたTone Momentum(as津上研太/pf小林洋子)のプレイバックを聴いては、ああでもないこうでもないと、engineer五島さんと3人でやり取りしていたのですが、
このところ、誰かしらが音源聴きたくないゾーンに入り作業が滞っています。
まぁ普通に(特に即興アンサンブルでは)よくある事で、ちょっと小休止ですね。
でも10曲のテイクの選択はなんと全て一致して、本来良く食い違いが生じることですが、DUO編成ではありますがこんなにばっちりいくこともあるんだなぁと、その点ではスムーズに五島さんに編集に入ってもらえました。
ところが規格外の響きとポジティブで複雑な音の情報量は膨大なようで、
五島さんお手製の2つの無指向性のマイクペアで予想外の相互干渉が起こっているとのこと。
現在、丁寧に処理していって下さっている最中で、完成までに皆で面白がって作業できればなと思っていますが、五島さん程の方でも今回ばかりはかなり悩ましいことのようで、のんびりといきたいと思います。
作業といっても津上研太さんと私は、何回も聴く作業が度々やってきて、この「聴く」に尽きるのですが。
レコーディング当日、思い起こせば、中々おもしろいことがたくさんありました。
私も研太さんも初めて伺う空間で、話には聞いていましたが、建物全体を楽器とみなして作られた空間に、ましてや徹底的に響きを重視して様々手を施してあるベーゼンドルファー のインペリアルと相対するのは、楽しくもありながら大変なことでした。
ある程度は予想していましたが、それ以上だったように思います。
五島さんお手製の、絹の擦れる音も録れるほどのマイクを、ボンとピアノの横に置き、今回はもう一つ研太さんの斜め前だったかに置いてありました。モニターも使いません。空調も消します。
まず、指定されたサックスの位置では、真横にデーンとベーゼンのインペリアルが鎮座しているにも関わらず、同時に音を出してみると、ピアノの音が研太さんに全く聴こえないというハプニングから始まり、
「さて、どうしますか?」と頭を抱える事態から、研太さんの立ち位置、身体の向き、マイクをほんの数センチ移動するなど、なかなかおもろいなと思える瞬間でした。
結局、Tone Momentum saxophonistは、pianoに背を向けて吹くことに相成ったのですが、
実際に録音に入るまでに2時間位かかったと思います。
さてそれからレコーディング、一曲目Childhood Friendという私のオリジナル曲から始めたのですが、
すると今度は私が、ホール内を回って遅れて聴こえてくる研太さんの音とタイミングが合わず、このホールの響きに慣れるのに一苦労しました。
元々研太さんは、引力みたいにギリギリの絶妙なタイミングでたっぷりと吹くタイプで、普段それにつられないように、これはバンドで言えばベースの役目なんですが、
ベーシストは合わせてしまうと(saxのフレーズを聴きすぎてしまうと)どんどんテンポが遅くなり、フロントは後ろからシャツの裾を引っ張られているかのような気分で吹かなければならなくなる。
その引っ張られているような嫌な感じはピアニストの私にも分かりすぎるくらい分かることで、日頃から注意をしているのですが、
そういうこととは全く違う、物理的状況での話で、極端な例を挙げれば、まるで山彦かってくらいに遅れて私に返ってくる。
この状況では私にはどうすることも出来ず、私が慣れるしかないと即座に判断しました。
(後日プレイバックを聴くと、微妙なズレが所々にあるのですが、逆にそれは渦巻いてるみたいにエネルギーが動き、まぁその他の部分でも全体的に生き生きとはしているので、自分の中で折り合いをつけ良しとしました。)
engineer五島昭彦さんにお願いしているのですから、録音スタジオではないホールで行い、ブースもない、モニターもない、マイクをボンッと置いただけの一発録りドキュメンタリーです。ご本人も前々から仰っていました。「このホールは何が起こるか分からない」と。
その五島さんお手製のマイクが凄くて、前述した通り絹が擦れる音も拾い、空調の音など以ての外、従って録音中は空調を切ります。
私は寒いのが苦手な末端冷え性なので、空調を切ることをしっかりと頭に入れていて、両ポケットにホカロン、背中に3つホカロンを貼り、ソックスに貼るホカロンも準備万端。
そして寒暖差アレルギーの私は、録音中に鼻グスグスがやってくるかもしれない、そんな音を録られるのだけは避けたいと、前もってかかりつけの病院に行って寒暖差アレルギーの薬を処方してもらい、レコーディング前日寝る前に飲用し予防線を張る。
それから、床から冷えて演奏中に足が攣るかもしれないことも考慮に入れ、(今までに演奏中にこのようなことは一度もないのですが、何せこの真冬に暖房を切る訳ですから何が起こるか分からない)芍薬甘草湯も持参。
案の定、演奏中左ふくらはぎが攣り始め、やっぱりかーとなるも、芍薬甘草湯で10分ほどで解決する。今回はuna cordaは使っていないのに、何でダンパーペダルを踏む右足じゃなかったんだろうとどうでもいいことを今頃振り返ったりしている。
私は周りからは見えない実はホカロンだらけという状態だけど、撮影も入っているため研太さんはコートを着ることも出来ず、手が冷たくなって途中暖房をONにし、小休止したり、、、
その時、わー!!血筋も手伝っての抜群の身体能力の持ち主の研太さんに比べたら、私なんか可愛いかわいいウサギちゃんみたいなものだろうに(笑笑笑)、その研太さんが寒さにやられてるのに、筋力超薄の私が結構ポカポカだ!
ってその状態に面食らう私。
何と最初で最後の一瞬の勝ち誇った感(笑)、喜んで両ポケットのホカロンを貸してあげました。
そんなこんなで、でも何とか無事10曲録り終えて、打ち上げは奏者2人とengineer 五島さんとphotographer 竹下さんと4人で楽しく過ごしました。
STIMMER SAAL(楽器も含む)は、良い意味でも悪い意味でも魔物が住んでると言いたくなるような空間でした。
プレイバックして、今まで聴いたことのない私の音(質)が残されていたり、
サックスとピアノが音を発して、マイクに捉えられるまでの空間で、一体何が起こっていたの?というのが今の私の正直な気持ちです。
サックスもピアノもめっちゃ良い音なんです。特にピアノの低音部は今まで聴いたことのない深い良い音だったと研太さんも言ってたくらいです。
ですが、音源聴いてピアノの半分から上20鍵位は、私があの日聴こえていた音質とは違っていて、そういったことも、発した音がマイクに捉えられるまでに一体何が起こっているの?と思う理由の一つではあります。
魔物が住む不思議空間
いやとにかく素晴らしいホールで、響きを重視してメンテナンスされているベーゼンのインペリアルは格別でした。
ハーフタッチ、ペダルとハーフペダル、una cordaとuna cordaのハーフの使い分けなどがとても上手い、ドビュッシーやラベル(ショパンも入るかも)は大得意というピアニストにはとても喜ばれる楽器だと思います。特にピアニッシモに重きを置いて調整されているとも伺いました。
私なんかにはとても扱えるような楽器ではありませんでしたが、貴重な体験ができて、何より研太さんの演奏は素晴らしいし、アルバムも予定していた10曲が全て収められそうで、今は安堵しています。
今まで何度も呟いていますが、私にとってとても難しいsaxとpianoのDUO、に挑戦し、敢えて不得意な自分の曲を選択したりしたけれど、今のTone Momentumとしての色や雰囲気は出せたのではないかと思っています。
まだまだやらなければならないことはたくさんありますが、少しずつ丁寧に「聴く」作業を続けます。
今はちょっとだけ小休止し、英気を養い、そして再び作業に取り掛かりたいと思う今日この頃です。
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*次回のTone Momentum ライブは2025.02.01(sat.)成城学園前cafe Beulmans 13:30startです。
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